本当は怖いHPC

HPC屋の趣味&実益ブログ

MPI Communicatorのattributesを利用して、MPI_Finalize()時にコールバック関数を起動する

MPIのややマニアックな機能の1つに、attriburtesがあります。これは、コミュニケータに、整数をキーとした辞書のようなデータ構造で値(属性)を登録できるというものです。関係する関数としては、 MPI_Comm_create_keyvalMPI_Comm_set_attrなどがあります。

一方、定義済みコミュニケーターの1つに、 MPI_COMM_SELF というものがあります。これは、そのプロセス自分自身のみが属する大きさ1の特殊なコミュニケータです。このコミュニケーターは、普通はあまり役に立たないのですが、MPIの終了時に最初に破壊されることが保証されているという特殊な性質を持っており、これを利用して MPI_Finalize() 時のコールバック関数を登録することができます。

MPI 3.1仕様書の当該箇所を引用します。

8.7.1 Allowing User Functions at Process Termination

There are times in which it would be convenient to have actions happen when an MPI process finishes. This can be accomplished in MPI by attaching an attribute to MPI_COMM_SELF with a callback function. When MPI_FINALIZE is called, it will first execute the equivalent of an MPI_COMM_FREE on MPI_COMM_SELF. This will cause the delete callback function to be executed on all keys associated with MPI_COMM_SELF

日本語訳

8.71. プロセス終了時に関数を呼び出す

MPIプロセスの終了時に動作を起こすことができると便利な場合があります。(中略)これは、MPI_COMM_SELF にコールバック付きのattributeを設定することで、MPIに実行させることができます。MPI_FINALIZE が呼ばれるとき、最初に MPI_COMM_FREE 相当の処理を MPI_COMM_SELF に対して行います。これにより、attributesの削除コールバックが起動されます。(以下略)

というわけで、この仕組を使うと、MPIの終了時にフックした関数を実行できます。以下は、具体的なコード例です。

#include <stdio.h>
#include <mpi.h>

// MPI_Comm_delete_attr_function
int my_comm_attr_delete_fun(MPI_Comm comm, int keyval, void* attr_val, void* extra_state) {
    fprintf(stderr, "my_comm_attr_delete_fun is called()\n");
    MPI_Comm *newcomm = (MPI_Comm*) attr_val;
    MPI_Comm_free(newcomm);
    return MPI_SUCCESS;
}

int main(int argc, char **argv) {
    MPI_Init(&argc, &argv);

    /* 独自のCommunicatorを作成。サンプルとして、終了時にこのCommunicatorを削除してみる */
    MPI_Comm newcomm;
    MPI_Comm_dup(MPI_COMM_WORLD, &newcomm);

    /* 新しく作る属性のKey */
    int keyval;

    /* 属性を作成 */
    MPI_Comm_create_keyval(MPI_COMM_NULL_COPY_FN, my_comm_attr_delete_fun, &keyval, NULL);

    /* COMM_SELFに属性を設定 */
    MPI_Comm_set_attr(MPI_COMM_SELF, keyval, &newcomm);

    /* 通常通り MPI_Finalize() を呼ぶ */
    MPI_Finalize();

    return 0;
}
# 実行例
$ mpicc test.c
$ mpiexec -n 2 ./a.out
my_comm_attr_delete_fun is called()
my_comm_attr_delete_fun is called()

コールバックが実行されていることがわかります。

Pyhtonでクロージャを使おうとして、Pythonの変数スコープにハマった話

クロージャは便利です。

以下のようなコードを書いて、期待と動作が違ったので数時間を溶かしてしまいました。詳しい人から見れば常識なのでしょうが…

import threading
import itertools
import time

A = [1,2,3]
B = ['a', 'b', 'c']

def main():
  for prod in itertools.product(A,B):
    # `prod` を束縛したクロージャを作る
    def f():
      for i in range(10):
        # このクロージャは、prodの値を10回表示して終了する
        print(prod)
        time.sleep(0.5)
    if prod == (1,'a'):
      # `prod`の値が (1,'a')のときだけクロージャ発動
      t = threading.Thread(target=f)
      t.start()
    time.sleep(1)

main()

さて、クロージャfは変数prodを束縛して、それをただ表示させているだけです。prodの値が(1,'a')のときだけクロージャを作成して起動しているのですから、出力は以下のようになると期待しました。

# 期待される出力
(1, 'a')
(1, 'a')
(1, 'a')
(1, 'a')
(1, 'a')
(1, 'a')
(1, 'a')
(1, 'a')
(1, 'a')
(1, 'a')

ところが実際の出力はこうなります

# 実際の出力
(1, 'a')
(1, 'a')
(1, 'b')
(1, 'b')
(1, 'c')
(1, 'c')
(2, 'a')
(2, 'a')
(2, 'b')
(2, 'b')

こうなる理由は以下のとおりです。スコープ外の変数を参照するクロージャを作った場合、そのクロージャのスコープに束縛されるのではなく、スコープ内で代入されない限りは上位レベルのスコープが参照されます。なので上位スコープ(参照サンプルコードの場合はグローバルスコープ)のprodの値が参照されるので、forループによって変数の値が変更されると、それを反映してしまいます。一般的に、このルールはグローバル変数への適用において遭遇することが多いですが、関数スコープ内でクロージャを作成するときにも適用されるんですね。

コードを以下のように直せば、期待通りに動きます

import threading
import itertools
import time

A = [1,2,3]
B = ['a', 'b', 'c']

def main():
  for prod in itertools.product(A,B):
    # `prod` を束縛したクロージャを作る
    def f():
      prod2 = prod  # <---- 新たな変数prod2へ代入する
      for i in range(10):
        # このクロージャは、prod2の値を10回表示して終了する
        print(prod2)
        time.sleep(0.5)
    if prod == (1,'a'):
      # `prod`の値が (1,'a')のときだけクロージャ発動
      t = threading.Thread(target=f)
      t.start()
    time.sleep(1)

main()

まとめ

Hy使おう(錯乱)

UCXを試す日記(8)

(追記:完全にグダグダなただの日記なので、タイトルに「日記」と付け足しました)

ここまで、UCXのディストリビューションに含まれている uct_hello_world.c を自作C++ラッパーに移植するという目標で勉強をしてきたのですが、C++ラッパーの実装の方針を大幅に変更することにしました。

これまではC++での完全なラッパーを目指していたので、コンポーネントの論理的な階層とC++のクラスクラス階層を一致させ、メモリ管理は std::shared_ptr を使うという方針でした。

しかし、 * コンポーネント間の依存性が複雑で循環参照を避けるのが面倒なこと * 単一の shared_ptr のインスタンスをあちこちコピーし回す必要があり、関数の関数の引数が増えたり、クラスのメンバ関数が不必要に増えたりして却って複雑になってしまうこと などの事情が見えてきました。

なので、よりシンプルな、非常に薄いラッパーに路線変更するか、そもそもC++ラッパーを作るのをやめるという方針のどちらかに方向転換するよていです。

実際にアプリを書きながら、考えてみようと思います。

とりあえずは、ディープラーニングで定番である Allreduce 関数の実装でもしてみようかと思っています。

【広告】