「PDCAサイクル」の罠 ー 青山学院大学大学院公開講座「IPO激減時代のベンチャー経営と資金調達」に行ってきた ー
青山学院大学の公開講座の一環として開催された、「IPO激減時代のベンチャー経営と資金調達」に参加。
前半は、NTVP代表の村口氏の講演、後半は「起業のファイナンス」をお書きになった磯崎氏の講演。長丁場の講座だったが、あっというまに終わってしまった。
一番印象的だったのは、村口氏のお話の中で「PDCAサイクルが諸悪の根源である」というところ。
社会人になると、必ず「PDCAサイクルを回せ」と言われる。しかし、村口氏は、このPDCAサイクルが(企業の経営においては)役に立たず、あくまで限られた状況で適用できるツールだ、という。
なぜなら、PDCAサイクルは、「Pが立案可能である」ということを前提条件にしている道具であり、経営の現実においては、どんなに精緻に計画しても、かならず予期せぬ出来事が起こるからだ。
自分も、昔ソフトウェア開発をしていたとき、上司から「PDCAサイクルを意識しろ」と言われた。プロジェクト終了後に「何が悪かったと思う?」と聞かれ、「最初の計画を捨てなかったことです」と答えて怒られたのをよく覚えている。Wikipediaにも書いてあるが、PDCAサイクルはそもそも生産管理や品質管理を効果的に行なうためのツールとして開発されたのであり、ある程度予測可能で周期性のある閉じた系で使うことが想定されているものだ。それを、本質的に予測不可能で周期性のない「経営」や「新規プロジェクト」といったものに適用することが間違いなのだ。
PDCAサイクル自体が悪いという話ではない。PDCAはあくまで1つの「道具」であり、使えるところでは使えばよい。
では、意志決定モデルとして何を使えばよいのだろう?
村口氏は、「OODAループ」を提唱する。OODAとは、
- Observe (観察)
- Orient (情勢判断)
- Dicide (意志決定)
- Act (行動)
のサイクルを繰り返すことによって意志決定を行なっていくというモデルらしい。
OODAループは、もともとアメリカ空軍で研究された意志決定理論だそうだ。たしかに、ビジネスや新規事業が、工場の「オペレーション」と軍の「オペレーション」のどちらに近いかと言われれば、当然後者なのである。軍隊で培われた意志決定理論が企業経営に通用するというのは、実に納得のいく話だ。
さらに、JCA(Join-Contribute-Share:参加して貢献すると分配が来る)モデルというものを合わせて、
- JCSサイクルを人生指針として学び
- OODAループを学習行動様式として身につけ
- PDCAサイクルを使えるところでは機能させる
が、起業家が学ぶべき3つの指針だということであった。
村口氏が導入で述べていたのは、「マニュフェスト政治はうまくいかない」ことであった。マニュフェスト政治というのは、要するに4年間の巨大なPDCAサイクルなのである。政治とは、毎日のように不測の事態が発生するものだ。事前に立案したPlanを元に、しかも4年間の巨大なPDCAサイクルが機能するわけがないというのは、言ってみれば当たり前の話である。
他にもたくさん役に立つ話はあったのだが、とりあえず自分が一番印象に残ったものということで書いてみた。結局大事なのは、道具や精神論に頼りきるのではなく、現実から目を背けずに直視して、サボらず合理的に考え行動することなのだなぁということ。